東グータ地域の概要と支援ニーズ(まとめ)

シリアの母子家庭のお母さんと子どもの写真。収入が殆どないため、食事を摂らない日もある。
© UNRWA/Taghrid Mohammad

過去7回に亘り、「東グータ地域」での人道危機の状況についてお伝えしてきました。

このブログでは、「東グータ地域」に関する過去記事を1つにまとめて、このブログさえ読めば「東グータ地域」のことが分かる!というようなブログにしています。

”包囲された地域”とは?

“包囲された地域”という表現について、その意味を説明したいと思います。

国連は、「武装主体が取り囲んでおり、人道支援のアクセスが許されず、病気や怪我をした住民が定期的に出ることができない地域」のことを、”包囲された地域”としています。

ここで言う”武装主体”というのは、反政府武装勢力やイスラム国のみでなく、政府軍も含めています。

ですので、
1)武装主体が取り囲んでいる、
2)人道支援目的でのアクセスが許されない(制限されている)、
3)病気や怪我をした住民が治療目的で域外へ出ることが許されない

という3つの環境が揃うと、“包囲された地域”と呼ばれることになります。

シリア国内にある”包囲された地域”

2017年12月19日時点で、シリアでは417,000人が包囲された地域に住んでおり、うち、94%の人々が東グータ地域に住んでいます。

各地域の人口の内訳は、以下の通りです。

地域 包囲されている人数 包囲している勢力
東グータ地域 393,000人 シリア政府軍
ヤルモック 12,500人 シリア政府軍、ヌスラ戦線、イスラム国
フォア、カフラヤ 8,100人 反政府勢力
マザレット・ベイト他 3,646人 シリア政府軍

(出典:UNOCHA)

誰が包囲しているのか?

国連の報告書では、包囲している主体は、シリア政府軍が95%以上(人数で換算)を占めており、残りの5%は、反政府勢力、ヌスラ戦線、イスラム国とされています。

東グータ地域の概要

場所


※「East Ghouta」という場所にカーソルを合わせると、「東グータ地域」の範囲が表示されます。

東グータ地域は、シリアの首都ダマスカスの郊外の東側に位置しています。
隣接する4つの地区(District)をまとめて、「東グータ地域」と呼んでいます。

広さ

約100平方キロメートルの大きさで、以下の4つの地域から成っています。

- Ein Tarma (Markaz Rif Dimashq District)
- Al-Bahariyah (Douma District)
- Hamouriyah (Markaz Rif Dimashq District)
- Otaybah (Douma District)

人口

2017年12月時点で、393,000 – 400,000人が住んでいると言われています。(UNOCHA, 2017.12)

うち、99,500人(約25%)は東グータ内で国内避難民となっています。

東グータ地域から出ることが許されないため、東グータの別の地域へ逃げている人々です。

例えば、住んでいた家が戦闘に巻き込まれて破壊された、戦闘の前線が迫ってきたため、家に住めなくなったという人々などが、国内避難民になっています。

東グータ地域で“包囲”が始まった時期

2013年4月から、シリア政府軍により包囲されています(IRIN, 2017.12)。

この時期から、シリア政府は、東グータ地域内への人道支援のための人やモノの往来を制限するようになりました。それと同時に、地域内を空爆やミサイルで攻撃しはじめました。

これまで、数千人が亡くなっていると言われており、東グータ内で包囲されている住民の健康状態は、大幅に悪化していると言われています。

東グータ地域へ、最後に支援物資が運ばれたのはいつ?

IRINによると、最後に支援物資が運びばれたのは、2017年10月30日です。

トラック49台が地域内へ入り、お米や油などの支援物資が運び込まれました。

もちろんですが、食料の量は、東グータ地域にいる人々が、十分な栄養を補給することができるものではありません。

東グータ地域には、政府軍に知られずに、人やモノが運べる「地下トンネル」などがありましたが、それらの輸送経路は2017年2月に全て破壊され、完全に”包囲”された状態となりました。

現在、地域内では、栄養失調の子どもが増えており、取り残された人々は、命の危険に晒されています。

東グータ地域の”包囲”の程度は?

東グータ地域では、人やモノを通すことができる場所は2ヶ所ありました。

1)ワフィディーン検問所と、2)ダマスカス郊外に張り巡らされた地下トンネルです。

ワフィディーン検問所は、政府軍が外側、反政府勢力が内側を管理しています。

政府軍にとっては、東グータ地域は、”包囲”している場所であるため、公には、人やモノの往来を許していませんが、検問所の担当官レベルでは、高額の通行料(賄賂)を渡せば、人やモノを往来させることができる環境でした。

もう一つは、ダマスカス郊外に張り巡らされたトンネルを利用し、東グータ地域内外を往来するという方法です。

このトンネル網は、2017年2月にシリア政府軍が進軍したことで遮断され、利用することができなくなりました。

また、シリア政府は、援助機関が人道支援目的で東グータ内へアクセスすることも殆ど許可しなくなったため、域内の一般市民の置かれる環境は、更に厳しいものと成りました。

ワフィディーン検問所については、政府軍は勿論ですが、内側を管理している反政府勢力の指揮官も利益を得るために、搾取に加担してきました。

1)物資の経路が遮断されたこと、2)支援が届かないこと、3)政府軍と反政府勢力による搾取、という3つの要素が、東グータ地域内に住む人々の生活環境を悪化させてきました。

東グータ地域での死亡者数

東グータ地域では、どれぐらいの人が亡くなっているのでしょうか?

紛争下という環境のため、明確な死亡者数は分かっていない、というのが答えです。

ただ、存在する統計データから推計することはできます。

SRMDは、シリア紛争での死亡者数のデータを公開しています。

この報告書によると、東グータ地域の位置するダマスカス郊外県での推計死亡者数は、2016年4月30日までで34,816人で、シリア国内で最も死亡者数が多い県とされています。

アレッポ県が31,257人で、2番目に亡くなった方の多い県とされています。

両県ともに、“包囲”された地域があり、過去に大規模な地上戦と空爆が行われた地域です。

ダマスカス郊外県については、同様に包囲されているヤルモックキャンプがあります。

ヤルモックと東グータ地域の人口比から考えて、34,816人の多くは、東グータ地域の死亡者であると考えられます。

紛争下では、死傷者に関する正確な統計データが存在しないため、上記の数字は、ご参考までの情報としてご理解いただければと思います。

東グータ地域での支援ニーズ

人道支援ニーズについて、国連やReach Initiativeのデータを基にお伝えします。

※2018年1月現在の東グータ地域の状況です。

アクセス(人やモノの往来)

東グータ地域へのモノの運搬ですが、商用トラックと支援物資ともに十分な量が運び込まれていません。

2017年中、東グータ地域へは、人道支援物資を積んだトラックが16回アクセスすることができましたが、2017年10月以降は、支援トラックの往来が許されていません。

商用トラックの運搬については、2017年11月末頃から、少量ながら東グータ地域内へ食料が運び込まれてきましたが、域内住民の需要を満たすことができる量ではありません。

人の動きは更に制限されています。

正規の越境地点は、ワフィディーン検問所のみですが、同検問所を使って、東グータ地域から出入りできた住民は殆どいません。

その他、東グータ地域内にスタッフがいるNGOが、支援活動を行っています。

栄養摂取の状況

国連は、東グータ地域に住む人々は、急性栄養失調のリスクが最も高く、慢性的な栄養失調についても、最も支援を必要とする人々が多いとしています。

子どもの栄養失調も深刻であり、ACASPは、少なくとも1,500人の子どもが栄養失調状態にあるとしています。

2017年11月に行われた調査(REACH)では、東グータ地域にいる、生後6ヶ月から4歳未満の幼児のうち、約12%が急性栄養失調状態であることが分かっています。

これは、東グータ地域が、シリア国内で最も急性栄養失調状態の幼児が多い地域でことを表しています。

栄養失調と食料不足により、住民の方が命を落とすケースについても、継続的に報告されています。

シリア系NGOが、急性栄養失調の幼児に対する支援を行ってきていますが、支援ニーズに十分応えることができていません。

食料の状況

2017年7月以降、ワフィディーン越境ポイントを使った物資往来ができなくなり、東グータ地域内の環境は悪化してきました。

地域内では、食料の流通業者が在庫を補充できず、限られた食料への需要は高まり、市場価格が跳ね上がる結果となりました。

2017年10月時点で、シリア国内の食料価格に比べ、東グータ内の食料価格は9倍になるなど、住民が購入できないほど高騰しています。

深刻な食料不足、食料価格の高騰、低い購買力という環境により、住民は最低限の食料を得ることができなくなっています。より購買力が低い母子家庭にとっては、生きるための食料の確保が更に難しい状況です。

十分な食料を確保できない住民は、1日に1回しか食事を摂らないようにするなどして、命をつないでいます。

また、グータ地域内で主要産業だった農業も、前線が農場付近になり、農作物の種や耕作に使う燃料も不足しているため、耕作することができなくなっています。

保健・衛生の環境

東グータ地域では、医療品(医薬品、ワクチン、医療器具など)が不足しており、十分な救命サービスを提供できていません。

また、医療施設は空爆の標的となっており、攻撃で医療施設は損壊し、医療従事者が被害を受けるなど、医療サービスの提供を妨げる要因となっています。

地域内には、数百人の重症患者がおり、域外での治療を受けることについて許可を求めていますが、シリア政府はこれを許さず、治療を受けることができずに亡くなる住民も出ています。

医療施設に患者として登録されている半数以上は、女性と子どもとされています。

東グータ地域内の医療施設の3分の1は機能しておらず、医療品や医療用品の在庫も日々減っています。

支援団体が域内へ支援物資を運ぶ際は、医薬品や医療用品の補充は制限(または拒否され)るため、支援物資として運び込まれる医療関連物資は必要な量の20―25パーセントに満たないと言われています。

避難所や居住場所の環境

東グータ地域における民家の損壊状況に関する調査では、76パーセントの民家が損壊していると言われています。

シリアの他地域では、4パーセントの民家が損壊していると言われているため、東グータ地域の被害状況が深刻であることがわかります。

公共電力は利用できない状況であり、主な電力源はディーゼル発電機です。ディーゼル燃料も手に入りづらい環境であり、地域外に比べて各世帯が負担する電気代は、平均で21倍以上になっています。

また、水道施設も利用することができません。一時的に給水車を利用することができた地域もありますが、多くの住民は、使われていなかった井戸から水を汲み上げて、生活用水として利用しています。井戸水は、揚水量も限られており、飲料水として適さない水質ですが、選択肢のない住民は、この井戸水を飲んでいます。

東グータ地域の住民が安全な水へアクセスするためには、壊れた水道施設の復旧が求められていますが、食料を地域内へ運ぶことすら難しい状況のため、復旧の見通しが立っていません。

教育の環境

東グータ地域では、就学年齢の子どものうち、35パーセントしか教育を受けることができていません。

東グータ地域では、薪を集めることや井戸から水を運ぶことが、子どもの日々の仕事になっており、学校に通うことが出来る子どもは限られます。

授業を行える学校は限られるため、1教室当たりの生徒数が多すぎる環境となり、また十分な文房具や教科書も生徒に支給されていないため、教育の質を確保することができていません。

更に、シリア政府は学校を攻撃対象としているため、通学中や勉強中に被害に遭うことを恐れ、学校に通わなくなる生徒も出ています。

2017年11月には、3つの学校が政府軍による攻撃を受け、生徒や教師が亡くなっています。教育施設に対する攻撃の脅威が高まったことにより、一部学校は休校となるなど、子どもの教育を妨げる要因となっています。

東グータ地域で活動する支援団体

ここでご紹介する支援団体は、地域内でスタッフが直接支援サービスを届けている団体のみです。

また、安全管理の観点から、東グータ地域内で活動していることを公にしていない団体も多く、支援団体の情報を集めるのに苦労しました。

今回は、東グータ地域内で医療支援を行う団体をご紹介しますが、この他にも、他分野で活動する団体がいることについてご理解の上、お読みください。

また、本記事は、紹介している団体の支援の質については担保していません。

SAMS

本部はアメリカにありますが、在外シリア人により設立されたディヤスポラ系のNGOです。

シリア全土で、100以上の医療施設を運用しており、シリア紛争開始直後から医療支援を提供してきています。支援規模も大きく、知名度が高い団体です。

アドボカシー活動も活発に行っているので、メディアでも見かける機会が多いと思います。

東グータ地域にも医療施設を持ち、医療サービスを提供しています。

地域内のみの数字は公表していませんが、東グータのあるダマスカス郊外県では、22の医療施設を運用し、これまでに352,662人へ医療サービスを提供しています。

こちらのウェブサイトから、寄付ができます。
クレジットカードも使えます。

「Designation」という項目で、「East Ghouta」を選ぶと東グータ地域での活動を指定して寄付をすることができます。

UOSSM International

ウォッサムと読みます。

2012年に設立された団体で、医療支援を行うシリア系のNGOです。
SAMSと同じく、在外シリア人により設立されたディヤスポラ系と呼ばれる団体です。

この団体も、アドボカシー活動を活発に行っているため、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

東グータ地域では、主に一次医療を提供する医療施設を運営しています。

また、戦闘により損傷した医療施設の修復や再建を通して、継続した医療サービスの提供できる環境を作っています。

UOSSMへは、こちらのウェブサイトから寄付ができます。クレジットカードも使えます。

ただ、指定寄付のオプションがないため、東グータ地域支援として指定した寄付はできないようです。

MSF(国境なき医師団)
国境なき医師団(MSF)は、民間で非営利の医療・人道援助団体です。独立・中立・公平な立場で、紛争地や自然災害の被災地、貧困地域などで危機に瀕した人びとに緊急医療援助を届けています。1999年にノーベル平和賞を受賞しました。

日本では、「国境なき医師団」と呼ばれている団体です。

紛争下での医療サービスの提供を得意とする団体です。

シリア国内の支援活動も、シリア紛争が始まった2011年から実施してきており、シリア全土で医療施設の運営と、医療用品の供給も含めたサポートを行っています。

東グータ地域では、医療施設は運営していませんが、野戦病院や診療所に対し医薬品や医療機器の提供等を行っています。

こちらのウェブサイト(日本語)から寄付をすることが出来ます。クレジットカードも利用できます。

「支援対象」という項目で、「シリア緊急援助」を選ぶと、シリア国内での支援活動への寄付をすることができます。

東グータ地域での活動のみへの指定寄付はできないようです。

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